言葉と思考の発達
子どもは「うれしいね」「よかったね」「痛くてつらかったのね」と、共感的な言葉を受け取ることで、受容されていること、理解されていることをおぼろげながらに感じ、周囲の人、ひいては世界への信頼感を獲得していきます。また、他者の気持ちに気づき、親和的な人間関係を形成する術を身につけます。
信頼や愛着の形成に、このような心をなぞる言葉が大切なのはよく知られていることです。それでは、情緒的な発達以外の、子どもの思考や行動の発達に、言葉はどのように関係しているのでしょうか?
言葉と思考を考える上で重要になる、内言と外言という概念があります。内言とは、自分の心の中での言葉であり、外言は、他者とのコミュニケーションのための言葉といえます。たとえば、電車が遅れたときに駅のホームで待ちながら(こまったなぁ、有楽町線で行こうかな)と心で思っている言葉は、内言です。それに対して、「電車来ないねぇ、あとどれくらい待つかな?」と誰かと話をする言葉は外言になります。外言ほどはっきりとはしていませんが、人間は心の中でも言葉で思考しています。外言と内言が相互に発達することで、他者とのコミュニケーションは豊かになり、より複雑で深い思考が可能になるのです。
幼児が夢中になって積み木で遊んでいたり、絵を描いたりしているときに、「これ、でんしゃ、ここ。ワンワン。」などと独り言をいっている姿をよく見かけますね。これはどう解釈できるでしょうか?
ヴィゴツキーという研究者は、子どもの独り言(「自己中心語」といいます。)は、自分の行動を計画、調整したり、考えたりする機能を果たしていると考えました。他者とのコミュニケーションの道具として言葉は始まり、その機能はおもに要求や指示です。泣き、発声、指差しといった行動、まずマンマ、ニャンニャンといった要求や指示を表す言葉が発達することからもそれがわかります。子どもはおもにこのような外言を獲得し、徐々に心の中での言語行為(内言)が分化していくと考えたのです。つまり、上のような子どもの独り言は、自分の考えを整理し、行動を調整しようと思考していることの表れだといえます。それが心の中だけではうまくいかず、思わず口に出てしまうのです。この独り言は成長に従って減少しますが、しかし大人でも、驚いてどう対処していいかわからないときに思わずブツブツと独り言を言ったり、騒がしいなかで集中したいときに文章をボソボソと声に出して読んだりすることがあるのは同じことです。
そう考えると、大人がやっている「もーこれはカッカしてもしょうがない!お茶でも飲もう…」といった、自分の感情や行動を見つめ行動を決めていくことが、小さな子どもにはとても難しいことが想像できます。だから子どもが自分の感情や思考を知り、行動を調節することができるような言葉を、周囲の大人がかけることがとても重要なのです。「こうしたら、こうなるんだよね」、「次はこうしたいんだ。 じゃあここはこうしようか?」と、考えや行動の道筋を作ってあげることで、子どもはものの考え方を理解し、思考の枠組みを作っていきます。
個人差もありますが、あと何年か経つと、「もう!ママあっちへ行って!」、もっと経つと、「うるさいな、今やろうと思ってたのにー チェ」となるかもしれませんね。しかし子どもが小さいうちは、子どもの自主性も大切ですが、大人が子どもの思考や行動を言語化して助けながら、積極的に舵取りをするかかわりが求められます。